音声制作
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さらに上質なローカライズを目指して - パート2:音声ローカライズプロセスを最適化
ゲーム音楽とサウンドデザインのカンファレンスであるGameSoundConにて、PTWとSIDEに所属する音声&スピーチSVPであるOlivier Deslandesが知見に富んだ講演を行いました。
音声ローカライズの主な段階を概説した後、Olivierはこのプロセスでスタジオが陥りがちな落とし穴を紹介し、すでによく知られている問題に対して実行可能な解決策について語りました。
ゲームスタジオは、ローカライズ、特に音声ローカライズのベンダーと協力関係を構築する前に、コスト、VOのプロセスのタイプ、キャスティングの概要、スクリプトのフォーマットなど、様々な側面について知っておく必要があります。この準備を行うことで、音声ローカライズのプロセスを最適化し、関係者全員にとってメリットの高い協力関係を築くことができます。
では、その詳細を掘り下げてみましょう。
音声ローカライズの予算は、ゲームのローカライズ総予算のなんと50~70%を占めます。声優、ボイスディレクター、サウンドエンジニア、プロダクションマネージャー、そして高度な設備や機材が必要です。
コストが高くても、声優の演技や収録の質が低いと完成品の品質に影響するため、その投資に見合うだけの価値は十分あります。プロの声優、ゲームを熟知したボイスディレクター、そして経験豊富なプロダクションチームに予算を割くべきでしょう。特に複数社に依頼する場合は、出演者との契約、スケジュール管理、アセット管理などを、専門のプロダクションマネジメントチームが行うのがベストです。
ワード数やセリフ数、時間的な制約とそれに伴う収録スピード(これは同期の状態によって左右されます。詳しくは後述)、そして声優の質がコストに影響する要素となります。制作中に発生する遅延や変更は進捗や予算に影響を及ぼしかねないため、収録開始前にできる限りの準備をしておくことが賢明です。
詳細な見積もりを出すためにベンダーが必要な情報には以下のようなものがあります。
ボイスオーバーするセリフの種類は、スクリプトの長さや、付随的で物語に関わらない以外のセリフの数といった要因によって、コストを決める要素になり得ます。
VOがゲームのオリジナル音声とタイミングを合わせる必要があるか、ビジュアルとシンクロさせる必要があるかという、同期の必要性が決定的なものになります。非同期型のVOには、バーク(痛みを感じたりや力を出したりする時のうめき声)、一言セリフ、NPCの世界観構築用セリフなどがあります。一方、スクリプトのあるイベントやカットシーンでは、同期したVOが必要です。
コストを変える要因には、異なる言語間の各ラインの長さもあります。言語間の構造的な違いも、スピードが不一致する原因です。例えば、ロシア語は英語より長くなる傾向がありますし、中国語のような声調のある言語の同期も困難です。
そこで、収録の制約をすべて定義することが重要です。ゲームの仕組み上、ローカライズされたVOをワイルドにできる場合は、制約がなく、必要なだけの長さの台詞を収録できます。次に、時間制約型(TC)と厳密な時間制約型(STC)のボイスオーバーがあります。TCでは、元言語より長かったり短かったりするファイルも、一定のマージン(通常10%)内であれば使用できますが、STCでは、ローカライズされた音声はソースレコーディングの長さと完全に一致する必要があります。
また、サウンドシンクはSTCと似ていますが、空白の位置も元言語と同じにするものです。リップシンクは、映像の唇の動きと音声を完全に一致させる手法です。ムービーシーンでキャラクターの顔が近い場面などで使用します。
適切な資料を作成することで、無駄な時間やミスコミュニケーションを減らすことができます。より込み入ったものになるハードルの1つに、キャスティングブリーフというものがあります。これはキャラクターのローカライズに必要な情報をまとめた書類で、一見すると、元の声優を現地の人材に置き換えるだけで、さほどハードルが高くないように思えるかもしれません。しかし、このキャスティングの難しさには、微妙な違いがあるのです。
例えば、コメディー的な特徴として訛りをもつキャラクターは、その訛りがローカライズする言語に対応せず、ユーモアが通用しなくなることがあるのです。
特定の国を舞台にした戦争ゲームのような場合では、ローカル色を出すための外国語のセリフも同様です。ローカライズの対象となる国がそのゲームの舞台となっている場合、そのセリフは正しいものではなくなるかもしれません。これについては、選択したベンダーと話し合う必要があります。
また、キャラクターの年齢も、キャスティングの際に難しい場合があります。カスティーリャ系スペイン語の声は、ネイティブ以外のプレイヤーには老けて聞こえることがありますし、日本人の女性の声は、日本人以外のプレイヤーには若く受け取られる傾向があります。また、国によって子供の労働に関する法規制が異なるため、スケジュールや生産性の面でリスクがあり、実際の子供を声優として起用することも難しいです。そのため、子供のような声を出せる大人の声優を起用することが多くなっています。
個々のセリフには収録セッション中に変更が入ることがあります。そのため、スクリプトのフォーマットはセリフのステータスに関係するため、収録を順調に進めるため重要な要素となります。
一般的には、台本の変更、別テイク、タイムスタンプ、バージョン管理などが容易に行える、マクロ付きのExcelスプレッドシートを使用することが多いです。台本で重要なのは、時系列に並べるための固有ラインID、ストーリーの背景やディレクターのメモ(どの時点で話されるセリフかが常に明確になるように)、キャラクター名(常に一貫したスペルと話し方が必要)、セリフのタイプ(同期させるか否か)、フィーダーライン(収録時に文脈に合わせて直前のセリフを再生できるリンク)、そして固有ファイル名です。
最後に、声優が当日実際に収録した内容にできるだけ近い、AsRec台本を作成することが重要です。前述のように、収録内容はオリジナルの台本から逸脱していることが多いので、AsRec台本には、QAやポストプロダクションが字幕や別テイクのために必要となるすべての変更点や追加コメントを記載します。