音声制作
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さらに上質なローカライズを目指して - パート1:ゲームのための音声ローカライズ入門
SIDE(PTWのプレミアムオーディオサプライヤー)の音声&スピーチシニアバイスプレジデントであるOlivier Deslandesは、そのキャリアのほとんどで音声制作に取り組んできました。ゲーム音声に関する彼の知見を垣間見てみましょう。
先日、LAで開催されたGameSoundConでOlivierが音声ローカライズについて講演しましたので、その内容をご紹介します。
ゲームの音声ローカライズを検討する際、どこから始めるべきかについてぜひご覧ください。
他言語へのローカライズを行うかどうかではなく、どの言語を対象にするか、また、ゲーム内のテキストからフルボイスまで、どのようなレベルでローカライズするかということが大切です。
ローカライズを検討すべき理由は、これまでにも実証されています。例えば、自分の体験と文化的な親近感を覚えられれば、プレイヤーはそのゲームをより高く評価してくれるでしょう。母語と異なる言語でプレイするよりも、母語でプレイしたほうが、より魅力的なゲーム体験となります。また、言語が増えれば、より多くの人がプレイすることになり、潜在的なプレイヤー層が拡大するため、収益増加につながります。
ゲームのジャンルや範囲によっては、テキストをローカライズするだけでも十分な場合があります。しかし、音声ローカライズをする場合は、ローカライズはより複雑化しますが、その分、プレイヤーに没入感を与えることができます。
音声収録が行われるよりずっと前に、包括的なローカライズ戦略を決定する必要があります。どの言語や地域をターゲットにするかを決めることで、ゲームの予算やスケジュールを具体的にできます。
ゲームスクリプトが完成したら、スクリプトだけでなく、トーン、テーマ、設定、プロット、キャラクターなど、ローカライズに必要なデータをまとめた「ローカライズキット」を作成するのがベストプラクティスです。
そして、ローカライズパートナーを選ぶ重要な瞬間がやってきます。パートナーにはSLV(シングルランゲージベンダー、単一言語ベンダー)とMLV(マルチランゲージベンダー、複数言語ベンダー)があり、それぞれにリスクとメリットがあります。SLVは対象言語のスペシャリストであるため、より集中的に結果を出すことができ、通例コストを抑えることができます。しかし、複数の言語をターゲットにする場合、複数のSLV間で進捗と品質を統一させて個別に管理するのは面倒なことです。
MLVを利用することは本質的に、管理されたSLVの集合体を利用することです。ゲーム翻訳業界の大規模なアウトソーサーは、各地域で迅速にスケールアップし、セキュリティの強化、より技術志向のソリューションとプロセス、安心感を提供することができます。デメリットは、SLVよりもコストが高価になる可能性が高いことです。
どのモデルを選ぶにしても、音声ローカライズのプロセスには、スクリプトのローカライズ、対象言語でのボイスオーバー(VO)収録、そしてローカライズQAという4つの段階があります。
プロセスの最も重要な部分です。スクリプトの翻訳、より正確にはスクリプトのローカライズです。翻訳が不十分だと、さらにその先の工程でエラーが発生し、回避可能だったプロセスの困難さが生じてくるため、この段階は非常に重要となります。
ローカライズは単にセリフを翻訳するだけではありません。ゲーム中のHUDやマップ、メニューなどに登場する名前や日付、単位、略語など、プレイヤーが目にするすべてのテキストを処理する必要があります。さらに、宗教、アルコール・薬物の仕様、血の描写など、その文化圏の感性を刺激しないよう、翻訳先となる地域にあったテキストにカルチャライズする必要があります。さらに、長さの調整、原語とのセリフの同期なども大きな課題です。
音声収録の前に準備した翻訳の質が高ければ、その後のプロセスがスムーズになります。
音声プロダクションにおける目標は常に、良い翻訳のスクリプトと、よく演出されたキャストで収録することです。しかし、そこに至るまでの道のりは複雑です。
ゲームデザインが固定され、キャラクターの概要ができ、オリジナル版またはソース版の最終的なアフレコ台本が完成したら、ボイスディレクターを起用して、ゲームの仕組みや物語の「感触」について説明を受けます。
その後、キャスティングが行われ、収録が開始されます。音声ストリングを編集し、名前を付け、ローカライズの基準となるダイアログ音声のベースが構築されます(物語の中でどのようにキャラクターが変化するかも含まれます)。理想的には、音声ローカライズを始める前にソース言語を確定し、完全かつ完成済みのアセットセットを用意するのが一番です。オリジナルの音源は、ローカライズを収録するスタジオが芸術的方向性を決める重要な手がかりとなります。しかし、大型タイトルの場合、これは必ずしも可能ではないため、作業は順々に並行して行う必要があります。
できるだけ早い段階でキャラクター設定に関する情報を受け取れれば、スタジオでキャスティング時にこの調整を行うことができます。スタジオ内でキャラ付けするのに使える時間はあまりないのが実情です。ローカライズ版の収録スピードは、常にオリジナルの収録よりも早く進みます。これは、ローカライズ版がキャラクターのトーンや強さを「創造する」必要がないためだけでなく、オリジナルと同じ時間や予算が与えられることがほとんどないためです。
このように、ローカライズされた収録が行われ、要望に応じてポストプロダクション(または編集)、F/X、マスタリングも行われます。ローカライズVOは、実装前にチェックするために一旦納品されます。そして、実装とLQAのために最も重要な、同じフォルダ構造、同じファイル名、同じファイル数という、ソースと一貫性のあるローカライズされた音声データベースが返却されます。ローカライズ期間が短い場合、時間節約のために「ドライ」ファイルを実装して言語テストを進めることがあります。ドライファイルは、最後には最終ファイル(エフェクト付きのボイス、最終的なビデオなど)と交換されます。
ファイルの準備が整い、ゲーム内に音声が導入された後は、LQA、ローカライズ品質保証にバトンタッチされます。LQAとは、ゲーム自体の翻訳やナレーションを、ターゲット言語のものと照らし合わせて評価する作業です。機能、互換性、コンプライアンスなど、プラットフォームごとに1回だけチェックすればよい機械的な側面とは異なり、LQAは各言語ごとに行わなければなりません。
適切なLQAは、デバッグキットとビルドの複製物にアクセスできるターゲット言語のネイティブスピーカーによって行われます。理想的には、LQAサービスのための設備が整っている場合であれば、翻訳とVOを担当した同じ会社がLQAを行うのがよいでしょう。LQAプロバイダーは前もってリソースを準備する必要があるため、やはり計画が鍵となります。最終的には、どのバグを即座に対処するか、どのバグを後回しにできるかというトリアージが必要になってきます。
まずは、バグが全くないビルドは存在しないということを理解していただく必要があります。典型的な問題としては、字幕が表示されない、または同期して表示されない、文脈の問題により翻訳がゲーム内で意味をなさない、音声ファイルが再生されない、再生される音声の言語が間違っている、違う音声が再生される、音量が変化する、などがあります。
翻訳と音声を同じ会社に依頼すれば、より大きなリソースでのスケールアップ、技術サポートの提供、多数のキットの準備、緊急の需要への対応にも対処できるため、良い選択となるでしょう。また、すべての言語の成果物を同時に得ることができるのも利点の1つです。