機械翻訳(MT)の利用は、コンテンツを異なる地域向けにローカライズしたいと考える業界においてますます普及しています。コンテンツの利用者が増えれば収益性も上がるため、そのメリットは言うまでもありません。しかし、ゲーム業界はゲームのローカライズにおけるMTの採用に関して、少し遅れを取っているようです。では、MTを利用する要因は何か、そしてゲーム業界がMTに取り組むべき理由は何でしょうか?
コンテンツの増加
最近の記事によると、世界のゲーム産業における総収益は2025年に2569億7000万ドルに達すると言われています。ゲーム開発はもはやAAA企業だけが独占する領域ではなくなり、小規模なインディースタジオがゲームを制作することも増えました。そのため、翻訳対象となるコンテンツはかつてないほどの増加を見せています。そのようなコンテンツは画面上に映し出される会話やテキストだけにとどまらず、チュートリアル、文書、サポートチャットやメール、ビデオ、ブログ記事、技術仕様など、ゲーム内外のあらゆるテキストやオーディオの多岐にわたります。翻訳者にとっては膨大で圧倒的な仕事量になる場合があるのです。
対象言語の増加
機械翻訳後のテキストを適切に編集することで、負担を軽減し、時間と労力を節約することができます。実装言語が増えればプレイヤーの幅が広がるため、まったく新しい市場にも訴求できるのです。最近では世界中のゲームがプレイできるようになったので、プロデューサーがゲームのニーズを評価し、実現可能性を検討し、可能な限りMTPE(機械翻訳後編集)を展開する方が理にかなっていると言えます。
ターンアラウンドの短縮
ゲーム開発は長い時間と労力を要するものです。ゲームローカライズはそのプロセスを最初から考慮していないと、同様に時間がかかります。スマートな開発者はこの時間を考慮し、MTPEを賢く使って市場投入までの時間を短縮します。この段階ではMTが得意とするコンテンツや言語ペアの組み合わせがあるので、これも要因になりえます。
ネイティブスピーカーの言語スペシャリストが重要な用語やフレーズを特定し、MTエンジンが正しく理解できるようにすることで、エンジンの学習を支援し、より流暢な翻訳文が出力されるようになります。MT使用とパワフルなポストエディットを組み合わせれば、従来の人力による翻訳と比較して生産性を15~40%向上させ、リリース時期を大幅に改善することが可能です。
品質維持とコスト削減
品質とコスト削減のバランスは常に重要です。その大部分は、どのMTエンジンがゲームに適しているかの評価に費やされます。エンジンの種類にこだわらず可用性を検討することで、適切性判定の際に必要な知見を得られますが、MTを使用するとコストが大幅に削減できるのは明らかです。特に、語彙研究が進んでおり迅速かつ容易に翻訳できるタイプのコンテンツといった、既にMTが成功を収めてきた言語には効果的です。すべてのプロジェクトで必ずMT後編集のワークフローの恩恵を得られると言う訳ではありませんが、まず分析してみる価値は必ずあるでしょう。
ゲーム内コンテンツとその他の用途
ローカライズが必要なコンテンツには、キャラクターのセリフやユーザーインターフェイスのテキストといったゲーム内のテキストコンテンツもありますが、ゲーム会社の翻訳でMTPEを利用すべきコンテンツは他にもあります。サポートチケット、プレイヤーとのチャット、国をまたいでゲームプレイを話し合うコミュニティなど、ユーザー向けのコンテンツはすべて翻訳対象となり得るでしょう。PTWでは、プレイヤーサポートにMTを導入してテストを行っており、専門のエージェントが話せない言語で質問された場合であっても、カバー率と回答効率を向上させることに成功しています。
課題
上記のようなメリットを考慮しても、MTはどんな場面でも使える万能のソリューションであるとは言えません。MTエンジンが理解できない慣用語彙を使ったセリフ、MTエンジンが間違った単語に置き換えかねない文脈のない1単語のボタン、地域特有の文脈に基づいたユーモア、現実世界ではなくその世界観で使用される新単語やフレーズを用いたファンタジーなど、MTだけではカバーしきれないコンテンツがゲーム内に登場することもあります。すべてのテキストを対象として機械翻訳後の編集が必要になるのはそれが理由です。場合によっては、PTWから人力によるローカライズワークフローの利用や、カスタマイズオプションをお勧めすることもあります。しかし、ヘルプ記事、ブログ記事、法的要件、技術仕様書などにおいては、MTエンジンが能力を発揮できるでしょう。このケースにおけるコストと時間短縮の効果は歴然です。
ビデオゲームへの導入に向けた長い道のり
これまでにも、MTの得意分野は直訳や単語対単語の翻訳であるということは良く知られています。MTの開発初期において科学技術、エンジニアリング、建設、自動車サービスなどの産業が恩恵を受けられたのはそのためです。
ビデオゲームにおいては、数十年の間従来の人力による翻訳が最適だと見なされていました。しかし、ソーシャルメディアによってプレイヤーが翻訳テキストの質を気にかけていると証明されたほか、最近ではネガティブな口コミが評判を気にする企業の脅威となり、強力な動機付けとなるかもしれません。
確率モデルや人工知能を用いたニューラル機械翻訳(NMT)は近年急速に発展しており、MTエンジンは以前のものよりも適応性が高く、流暢な文章を出力できるようになっています。また、単語や文章を曖昧にしないために、写真や視覚的な補助を文脈として取り入れるエンジンもあり、MTの出力品質が上がりその後の編集労力を軽減することができるようになりました。
ゲーム業界では、MTの導入が進めば進むほど、より強力なツールとなります。PTWでは、言語ペアやコンテンツの種類によっては、10~20%、最大50%の生産性向上を実現しています。MTコンサルティングサービスでは、プロジェクトのニーズに応じて、いずれかのエンジンをお勧めしたり、ゼロからカスタマイズしたりします。MTを有効に活用すれば、高い品質の成果を上げることが可能です。
ゲーム業界は常に新しい技術を導入する最前線にありますが、MTにおいても違いはないはずです。MTを使えば、大量のコンテンツを従来の方法よりもはるかに迅速にローカライズでき、これまで以上に多くのプレイヤーにリーチできる費用対効果の高いソリューションとなります。